第四十段（すける物思ひ）
　・・・阿波国文庫本
〜 定家本 … 第四十段
　　むかし、わかきをとこ、けしからぬ人をおもひけり。さかしらするおやありて、｢おもひもぞつく」とて、このをんなをほかへおひやらんとす。さこそいへど、まだおひやらず。人のこなれば、又、とヾむるいきほひもなし。をんなもいやしければ、すまふちからもなし。さるあいだに、おもひはいやまさりにまさるに、にはかにおや、このをんなをつひにおひうつ。
　をとこ、ちのなみだをながせど、さふるよしなし。さて、ゐていでぬ。をとこなくなくよめる。
　　いとひては れかわかれの かたからん
　　　ありしにまさる けふはかなしも
とてよみてたえいりにけり。おやあわてきにけり。なほおもひてこそいひしか、いとかくしもあらじとおもふに、まこともたえいりにければ、まどひて御修法（みづをふ）・願をたてけり。けふのいりあひばかりにたえいりて、またのひのいぬのときばかりになん、からうじていきいでたりける。をんな、
かへるひとにつけて、
　　いずこまで　おくりしはしつと 人とはば
　　　あかぬわかれの　なみだがはまで
とありけるをぞきゝて、をとこはたえいりける。
　むかしのわかき人は、かゝるものおもひをなんしける。いまのよのおきな、まさにしなんや。
あの人が自ら出ていったのならば、誰も別れがつらいとは言わない
　昔にも辛いことがあったけれど、いったい今日の悲しみほどに、悲しいことがあるだろうか
　　　　　一体何処まで　見送るのかと　人が聞いたならば　
　　　　　　　　　　　いつまでも飽かない別れの　溢れる涙が流れる涙河までと


語　句

現代語訳
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