第 六十一 段
(染河)
むかし、男、
筑紫までいきたるに、
「これは色好むといふすきもの」
と簾のうちなる人の、いひけるを聞きて、
染河
を渡らむ人のいかでかは
色になるてふことのなからむ
女、返し、
名にし負はばあだにぞあるべきたはれ島
浪の濡れ衣着るといふなり
染川を渡ろうとしている人が、どうして色に染まらないことがあるだろうか
みんな染まって、色好みになってしまいますよ
その名の通りなら、本当にいいかげんですよ戯れ島は、いや
「
たはれ島
」
は
波に洗われて、波の濡れ衣を着ているというではありませんか、同じ様に染川も無実です
語 句
定家本
狩使本
在原業平
藤原高子
伊勢斎宮
東下り
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