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第 百十一 段 (まだ見ぬ人)
- むかし、男、やむごとなき女のもとに、なくなりにけるをとぶらふやうにて、いひやりける。
古はありもやしけむ今ぞ知る
まだ見ぬ人を恋ふるものとは
- かへし、
下紐のしるしとするも解けなくに
かたるが如はこひずぞあるべき
- また、返し、
恋ひしとはさらにいはじ下紐の
解けむを人はそれと知らなむ
昔はこんなことがあったでしょうが、今はじめて知りました
まだ見たこともない人を、恋するものだと
ひとりでに解けるのが下紐の恋の証拠だといいますが、その下紐も解けませんから、
あれこれおっしゃる程には、私を恋い慕ってはいらっしゃらないのでしょうね
あなたが恋しいと、もうそれ以上言うのはやめましょう
もうすぐ下紐が解けるでしょうから、あなたは恋い慕われていると知って下さい
語 句
現代語訳