第八十四段（小野の雪）
　・・・阿波国文庫本
〜 定家本 … 第八十三段
　むかし、みなせにかよひたまひしこれきよのみこ、れいのかりしにおはします。御ともに、むまのかみなるおきなつかうまつれり。ひごろへて、みやにかへりたまうける。御おくりして｢とくいなん」とおもふに、｢御きみたまひ、ろくたまはん」とて、つかはさざりけり。このむまのかみこゝろもとながりて、
　まくらとて 草ひきむすぶ こともおほじ
　　秋の夜とだに たのまれなくに
とよみける。ときは、やよひのつごもりなりけり。みこ、おほとのこもらであかしたまひけり。
　かくしつゝ、まゐりつかうまつりけるを、おもひのほかに、御ぐしおろしたまうてけり。むつきに、｢をがみたてまつらん」とて、をのにまうでたるに、ひえの山のふもとなれば、ゆきいとたかし。しひて御むろにまうでて、をがみたてまつるに、つれづれとものがなしくておはしましければ、やゝひさしくさぶらひて、いにしへのことなどおもひいできこえけり。｢さてもさぶらひてしがな」と思へど、おほやけごともありければ、えさぶらはで、ゆふぐれに、かへるとてよめる、
　わすれては ゆめかぞとおもふ 思ひきや
　　ゆきふみわけて きみをみんとは
とてなむなくなくきにける。
　
枕として、草を引き結んで、旅寝することも多いでしょう

　今は秋の夜の長さをあてにできない、春の短い夜ですから

親王の今の成り行きを忘れては、これは夢ではないかと、思うことがあります

　雪を踏み分けて、あなた様にお目にかかるとは


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