五十八荒れたる宿
 ・・・阿波国文庫本

定家本 第五十八段

 むかし、こゝろつきていろごのみなるをとこ、ながをかといふところに、いへつくりてをりけり。そこのとなりなりけるみやばらに、こともなきをんなどもの、ゐなかなりければ、たからすとてこのをとこのあるをみて、「いみじのすきもののしわざ」とてあつまりて、いりきければ、
このをとこ、にげておくにかくれにければ、おんな、
  あれにけり あはれいくよの やどなれや
   すみけん人の おとづれもせぬ

といひければ、           

  むぐらおひ あれたるやどの さびしさは
   かりにもおにの すだくなり

とてなんいだしたりける。
  このをんなども、「ほひろはん」といひければ、
  うちわびて おちぼひろふと きかませば
   われもたづらに ゆかましものを

荒れてしまっていますね、一体何代たった家なのでしょうか
 住んでいる人が返事もしないのですかね
葎が生い茂り、荒れたこの家の寂しさは
 稲刈りしている時だけど、鬼がたくさん集まって騒がしいです
おちぶれて、落ち穂を拾うというのならば
 私も田の辺りに、手伝いに行っただろうに


語 句


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