第二十四段梓弓
 ・・・阿波国文庫本

定家本 第二十四段

 むかし、をとこをんな、かたゐなかにすみけり。「みやずかへしに」とて、わかれをしみてゆきけるまゝに、みとせこざりければ、まちわびたるに、いとねんごろにいひける人に、「こよひあはん」とちぎりたりけるに、このをとこきたりけり。
 「このとあけ給へ」とたゝきければ、うたをなんよみいだしたりける。
 あらたまの としのみとせを まちわびて
  たゞこよひこそ にひまくらすれ

といひいだしたりければ、をとこ
 あずさゆみ まゆみつきゆみ としをへて
  わがせしがごと うるはしみせよ

といひて、いなんとしければ、女、
 あづさゆみ ひけどひかねど むかしより
  こゝろはきみに よりにしものを
といひけれど、をとこかへりにけり。女いとかなしくて、しりにたちておひけれど、えおひつかで、しみずのあるところにふしにけり。そこなりけるいはに、およびのちして、かきつける。
 あひおもはで かれぬるひとを とゞめかね
  わが身はいまぞ きえはてぬめる
とかきて、いたづらになりにけり。

新玉の年の三年を、私は待ちくたびれて、
  新しい夫と新枕を交わすのです丁度今夜に
梓弓・真弓・つき弓のように、幾月を経て
   私かあなたにしたように、新しい夫をどうか大切にして下さい
梓弓を引くか引かぬか、どうでもいいのです
    ずっと前から私の心は、あなたを深く思っておりましたものを
逢って愛して下さらないで、離れるあなたを、引き留めることができず
  私の身は、今ここで、消え果ててしまうようです




  
語 句


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