第 百八 段
(浪こす岩)
むかし、女、人の心を怨みて、
風吹けばとはに浪こすいはなれや
わが衣手のかわく時なき
と、常のことぐさにいひけるを、聞きおひける男、
よひ毎に蛙のあまた鳴く田には
水こそまされ雨は降らねど
風が吹くと、いつも波が越す岩なのでしょうか
わたしの袖は、乾く間もございません
毎夜毎夜、蛙が沢山鳴く田んぼには、
雨は降らないのに、蛙の涙で水かさが増えます
語 句
定家本
狩使本
在原業平
藤原高子
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