昔、男がいた。男を恨む女を逆に恨んで、
鳥の子を十づゝ十は重ぬとも
思はぬ人を思ふものかは
鳥の卵を、十ずつ十回重ねられてもと男が言った。
朝露は消え残りてもありぬべし
誰かこの世を頼みはつべき
また、男が、
吹く風に去年の桜は散らずとも
あな頼みがた人の心は
と言うと、また、女の返し歌は、
行く水に数書くよりもはかなきは
思はぬ人を思ふなりけり
というものであった。また、男が言う。
行く水と過ぐるよわひと散る花と
いづれ待ててふことを聞くらむ
浮気心の比べっこをやりあった男女が、人目を忍んで通じたことを、競って詠んだものであろう。
原 文 解 説
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