第 五十 段 (あだくらべ)


 むかし、男ありけり。恨むる人を恨みて、
 鳥の子を十づゝ十は重ぬとも
  思はぬ人をおもふものかは

といへりければ、
 朝露は消え残りてもありぬべし
  誰かこの世を頼みはつべき

又、男、
 吹く風に去年の桜は散らずとも
  あな頼みがた人の心は

又、女、返し、
 ゆく水に数かくよりもはかなきは
  思はぬ人を思ふなりけり

又、男、
 ゆく水と過ぐるよはひと散る花と
  いづれ待ててふことを聞くらむ

あだ比べ、かたみにしける男女の、忍びありきしけることなるべし。

鳥の卵を、十ずつ十回重ねられても
 愛していない女を愛することなど、できるはずもない

はかない朝露は、消え残ることはあるかも知れません
 でももっとはかない二人の仲は、一体誰が頼りにすることができるでしょうか


もし、吹く風に、去年の桜は散らなかったとしても
 絶対頼りにならないものですよ、女心というものは

流れ行く水に、数を書くよりもあてにならないものは
 愛してくれない男を愛することよ


流れ行く水と、過ぎ去る年齢と、散る花と
 一体どれが待てという言葉を、聞いているのだろう
 

語 句


  定家本 狩使本   在原業平 藤原高子 伊勢斎宮 東下り
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現代語訳
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