第 九十九 段
(ひをりの日)
むかし、右近の馬場のひをりの日、むかひに立てたりける車に、女の顔の、下簾よりほのかに見えければ、中将なりける男のよみてやりける、
見ずもあらず見もせぬ人の恋ひしくは
あやなくけふやながめ暮さむ
かへし、
知る知らぬ何かあやなくわきていわむ
思ひのみこそしるべなりけれ
のちは誰と知りにけり。
全く見ないのでもなく、はっきり見たのでもない人が恋しくて
訳もわからずに今日は、物思いにふけながら一日を、過ごすのでしょうか
知っているとか知っていないとか、何の訳もなく、区別して言えるのでしょうか
ただ恋しい思いだけが、恋の道標なのですよ
語 句
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