第 六十七 段
(花の林)
むかし、男、逍遥しに、思ひど親いつらねて、和泉の国へ如月ばかりにいきにけり。河内の国生駒山を見れば、曇りみ晴れみ、たちゐる雲やまず。あしたより曇りて、ひる晴れたり。雪いと白う木の末に降りたり。それを見て、かのゆく人のなかにたゞ一人よみける。
昨日けふ雲のたちまひかくろふは
花のはやしを憂しとなりけり
昨日も今日も雲が立ち舞って、山がずっと隠れていたのは
白い花のような雪の林を、人に見せたくないと、思ったからです
語 句
定家本
狩使本
在原業平
藤原高子
伊勢斎宮
東下り
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