異 十五 段  【O】  


 昔、色好む人ありけり。男も、さま変はらず、同じ心にて、色好む女を、彼をいかでえてしかなと思ひたるを、女もねんじわたるを、いかなる折にかありけん、逢ひにけり。男も女もかたみに覚えければ、「我もいかで捨てられじ」と心の暇なく思ふになんありける。なほをむな、「いでていなん」と思ふ心ありて、
 いざ桜散らば散りなんひとさかり 
  ありへば人に憂きめ見えけん

と書きてなむいにける。男来て見れば、なし。いとねたく手折りけり。
 いさゝめに散りくる桜なからなん
  のどけき春の名をも立つめり

           (阿波文庫本)


さあ桜よ、散るならば思いきって一緒に散ってしまおう。一時の盛りが過ぎたならば
 他人にいやなところを見られずに済むでしょうから

仮初めに咲いてすぐに散ってしまうような桜なんかないほうがよいのです
 のどかな春という名も上がるだろう



語 句


  異本 狩使本  
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前の段 前段(異十四)
現代語訳
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