第二十段(楓のもみぢ)
むかし、男、大和にある女を見てよばひてあひにけり。さてほど経て、宮仕へする人なりければ、かへりくる道に、三月ばかりに、かへでもみぢの、いとおもしろきを折りて、女のもとに道よりいひやる。
君がため手折れる枝は春ながら
かくこそ秋の紅葉しにけれ
とてやりたりければ返り事は、京にきつきてなむもてきたりける。
いつの間に移ろふ色のつきぬらむ
君が里には春なかるらし
あなたのために折ったこの枝は、まだ春だというのに
こんなにも秋の紅葉のように、きれいに染まっているよ
いつの間に、移り変わる色が、ついてしまったのかしら
あなたがのいらっしゃる所には、春がなくて秋ならぬ、春がなくて秋ならぬ
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語 句
現代語訳