むかし、武蔵なる男、京なる女のもとに、「聞ゆれば、恥し、聞ねば苦し」と書きて、上書に「武蔵鐙
」と書きて、おこせてのち、おともせずなりにければ、京より女、
武蔵鐙をさすがにかけて頼むには
問はぬもつらし問ふもうるさし
とあるを見てなむ、堪へがたき心地しける。
問へば言ふ問はねば恨む武蔵鐙
かゝる折にや人は死ぬらむ
武蔵鐙をサスガに掛けて止めるように、流石にあなたを頼りにしている私には
なぜお便りを下さらないのと責めるのも辛いし、でも便りを下さるのも煩わしいし
武蔵鐙が掛かるように便りを出せば文句を言うし、便りを出さなければ怨まれる
こんな時にこそ苦しみの果てに人は死んでしまうのだろうか
語 句
現代語訳