第 百二 段
(世の憂きこと)
むかし、男ありけり。歌はよまざりけれど、世の中を思ひしりたりけり。あてなる女の尼になりて、世の中を思ひ倦んじて京にもあらず、はるかなる山里に住みけり。もと親族なりければ、よみてやりける。
そむくとて雲には乗らぬものなれど
世の憂きことぞよそになるてふ
となむいひやりける。斎宮の宮なり。
世に背を向けたといって、仙人のように雲には乗らなないけれど
世間の嫌なことは、関係のないことになるといいます
語 句
定家本
狩使本
在原業平
藤原高子
伊勢斎宮
東下り
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