第
四十五
段
(
行く蛍
)
・・・阿波国文庫本
〜
定家本
…
第四十五段
むかし、をとこありけり。ひとのむすめのかしづく、「いかでこのをとこにものいはむ」とおもひけり。うちいでんことかたくやありけん、ものやみになりて、しぬべきときに、「かうこそおもひしか」といひけるを、おやきゝて、なくなくつげたりければ、まどひきたりけれど、しにければ、つれづれとこもりをりけり。ときはみな月のつごもり、いとあつきころほひに、よひはあそびをりて、よふけてゝやゝすヾしきかぜふ
て、
ほたるの
なま
たかうとびあがるを、このをとこ、み
をり
て、
ゆくほたる くものうへまで いぬべくは
あきかぜふくと かりにつげこせ
となむよみけりる。
くれがた
に
なつのひぐらし ながむれば
そのことゝなく ものぞかなしき
飛んで行く蛍よ、雲の上まで行けるのなら、ここにはもう秋風が吹いていると
雁に知らせて、来るようにして欲しいものだ
なかなか暮れようとしない、夏の日に一日中外を眺めていると
女が死んだことなのか分からないが、何となく悲しいものだ
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