第一 段(初冠)
  
…阿波文庫本

定家本 第一段   真名本 第段   通具本 第段
阿波文庫 第段   為氏本・一誠堂 第段   塗籠本 第段
第段   為氏本・大島 第段   為家本・参考 第段
泉州本 第段   為相本・天理 第段   小式部内侍本 第段
   

 むかし、をとこうひかぶりして、ならのきやうかすがのさとに、しるよしして、かりにいにけり。 その里に、いとなまめいたるをんなはらから住みけり。かのをとこかいばみてけり。おもほえず、ふる里にいとはしたなくてありければ、こゝちまどひにけり。 をとこきたりけるかりぎぬのすそを切りて、うたをかきてやる。 そのをとこ、しのぶずりのかりぎぬをなんきたりける。
  かすがののわかむらさきのすりごろも
  しのぶのみだれ かぎりしられず

となんおひつきていひやりける。おもしろきことゝおもひけん。
   みちのくのしのぶもぢ ずりたれゆゑに
   みだれそめにし われならなくに

といふうたのこゝろばへなり。むかしのひとは、かくいちはやきみやびをなんしける。





  春日野の若紫のように美しいあなた方を見て

     この狩衣のしのぶの模様のように、私の心は果てしなく乱れています
  陸奥のしのぶもじ摺りの乱れ模様のように

     一体誰のせいで私の心が、生まれて始めて乱れたのでしょうか


語 句



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