第 十四 段（陸奥の国）
　・・・阿波国文庫本
〜 定家本 … 第十四段
　むかし、をとこ、陸奥みちのくにに、そゞろにいたりけり。そこなるをんな、きやうびとをばめづらかにやおもひけん、せちにおもへる心なんありける。さて、かのをんな、
　なかなかに こひにしなずは くはこにぞ
　　なるべかりけるたまのをばかり
うたさへぞひなびたりける。さすがにあはれとやおもひけん、いきてねにけり。よふかくいでにければ、をんな、
　　よもあけばきつにはめなでくたかけの
　　まだきになきてせなをやりつる
といへるを、をとこ「きやうへなんまかる」とて、
　　くりはらのあねはのまつのひとならば
　　　みやこのつとにいざといはましを
といへりければ、よろこびて、「おもひけらし」とぞいひをりける。
あの仲の良い蚕にでも、生半可な恋に死んだりしないで
　玉の緒ほどの束の間でも、なったらよかったのに
あのあきれた鶏のやつめ。夜も明けたならば、木桶に放り込まずにいられないわ
　まだ時がこないのに鳴いてしまって、あの人をさっさと帰らせてしまったじゃないの
栗原にある、姉歯の松が人並みの人間であるならば
　都のみやげに、さあ一緒に行こうと誘うのだけれどね

語　句

現代語訳
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