第百三段藤原の敏行
 ・・・阿波国文庫本

定家本 第百七段

 むかし、あてなるをとこありけり。そのをとこのもとなりける人を、ないきにありけるふぢはらのとしゆきといふひとよばひけり。されど、まだわかければ、ふみもをさをさしからず、ことばもいひしらず、いはむやうたはよまざりけり。かのあれじなる人、あむをかきてかゝせてやりけり。めでまどひにけり。さてをとこのよめる、
 つれづれの ながめにまさる なみだがは
  そでのみひちて あふよしもなし
かへし、れいのをとこ、女にかはりて
 あさみこそ そではひつて なみだがは
  みさへながると きかばたのまん

といへりければ、をとこいといたうめでて、いままでまきて、ふばこにいれてあるくとなんいふなる。
   をとこ、をんなのもとにふみおこせたり。えての
  ちのことなりけり。
「あめのふりぬべきになん、み
  わづらひ侍る。みさいはひあらば、このあめふら
  じ」
といへりければ、れいのをとこ、をんなにか
  はりて、よみてやらす。

   かずかずに おもひおもはず とひがたみ
    みをしるあめは ふりぞまされる

  とよみてやれりければ、みのかさもとりあへで、
  
しとゞにぬれて、まどひきにけり。

   しんみりと物思いにふけっているので、涙が水かさの増した川のように流れ

      袖が濡れるだけで、あなたにお逢いする術もありません

   川が浅いからこそ、袖は濡れてしまうのでしょう

      あなたの涙の川が深くなって、体まで流れるとお聞きしたならば、あなたを頼りにいたしましょう

   あれこれと私を思って下さるのか、思って下さらないのか

      本心を聞きかねていましたので、私の悲しい身のほどを知る涙の雨は


語 句


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