第 72 段
昔、男が、伊勢の国に住んでいた女に、もう一度逢いたいと思っていたのに、二度と逢えないまま隣の国に仕事で行かなくてはならなくなってしまった。逢ってくれない女を男は大変恨んだので、女は詠んだ。
大淀の松はつらくもあらなくに
うらみてのみもかへる波かな
大淀の松は、いえ私は、辛い仕打ちをした訳でないのに
ただ浦を見ているだけで、寄せては返る波のように、あなたは帰ってしまわれるのですね
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