第 44 段


 昔、地方の任国へ国司として赴任する人に、送別の宴をしようということで、その人を招いた。親しくない人でもなかったので、その家の主婦が盃をすすめさせて、女の装束を贈ろうとする。それを見た主人の男が、歌を詠んで装束の裳の腰紐に結び付けさせる。

 出でてゆく君がためにと脱ぎつれば
  我さへもなくなりぬべきかな

      旅立つあたなのためにと、脱いだ裳なのです
        裳ならぬ喪がなくなって、私までも災いがなくなるでしょう

 この歌は数多ある歌の中でも特に面白いので、心の中で詠んで腹の中で味わうのがよい。



原 文         解 説


  定家本 狩使本   在原業平 藤原高子 伊勢斎宮 東下り
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