第85段
(
さらぬ別れ
)
・・・阿波国文庫本
〜
定家本
…
第84段
昔、男がいた。身分は低いけれど、母は
伊都内親王であった
。
その母は長岡という所に住んでおられた。子は、京で帝にお仕えしていたので、母をお訪ねしようとしたけれど、何度
も
何度
も
お訪ねするというわけにはいかない。そのうえ、一人っ子
に
さえあったので、母はとてもお可愛がりになっていた。そうしているうちに、十二月の頃に、「至急」という事で、お手紙が届いた。驚いて見てみると歌があった。
老いぬればさらぬ別れのありといへば
いよいよ見まくほしく君かな
年老いたならば、どうしても避けられぬ別れがある、ということですから
ますますお目にかかりたいと思います、愛しい我が子よ
その子は、
大変
はげしく泣いて詠んだ。
世の中にさらぬ別れのなくもがな
千代もと
なげく
人の子のため
世の中に、避けられない別れなんかないほうがいい
長寿をと
嘆く
人の子のために
原 文
解 説
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