第118段深草
 ・・・阿波国文庫本

定家本 第123段
大島本 第120段

 昔、男がいた。深草に住んでいた女を、飽きてきたのだろうか、こんな歌を詠んだ。

 
 年を経てすみこし里を出でていなば
    いとゞ深草野とやなりなむ

      何年も一緒に、住んで来たこの深草の里を、私が出て行ったならば
        なお一層深い草の野と、なってしまうでしょう

女は、歌を返した。

  
野とならば鶉となりて鳴きをらむ
   狩だにやは人のこざらむ

      草深い野となってしまったならば、私は鶉となって鳴き続けましょう
        例えかりそめであっても、誰かが狩に来ることもあるでしょうからね

詠んだので、感心して「出て行こう」と思う気持ちがなくなってしまったのだった。



原 文         解 説


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