第１０１段（藤の花）
　・・・阿波国文庫本

　昔、左兵衛督であった在原行平という人がいた。その人の家には、美味い酒があると聞いて、上司の左中弁の藤原良近という人を、主客ということにして、その日は主人となってご馳走を振る舞った。主人は風流のたしなみを心得た人であるから、瓶に花を差してあったのである。　花の房が３尺に加えて６寸（一・五�b）どもあったのである。それを題にして詠む。詠み終わった時に主人の兄弟である男が、宴会していられると聞いてやって来たので、急いで歌を詠ませた。もともと歌のことは何も知らなかったので、辞退したが、無理強いして詠ませたところ、このように詠んだ。
　　咲く花のしたにかくるる人を多み
　　　　ありしにまさる藤のかげかも

「なんでこのような歌を詠むんだ」と言ったので、「太政大臣の藤原良房様が栄花の絶頂にいらっしゃって、藤原氏が特に栄えているのを思って詠んだのです」と言った。この説明で、皆はこの歌を非難しなくなった。

　太政大臣は、号を忠仁公という。藤原氏が栄えるとは、この大臣、藤原良房のときのことである。