第 94 段


解説

「 大和物語 第159段
 染殿の内侍という方が、いらっしゃった。彼女の元に源能有(845〜897)という大臣が、ときたまお通いになった。彼女は器用で、色々なことがよくできたので、着物などの仕立てを依頼したときに、綾織物などを沢山持っていかせた。内侍は、「雲と鳥の紋の綾を染めた方がいいでしょうか」と聞いたのだが、何の返事もなかったから「何かおっしゃて下さらないと困ります、何かお決め下さいな」と申し上げると、大臣の返事は、
  文目も分からないほどに恋しくて、雲や鳥の綾の色のことまで分かりません
  あなたにお逢いしないままあまりにも年月が経ってしまいましたから
 
とおっしゃった。 」

「 大和物語 第160段
 同じ染殿の内侍のもとに、在中将こと在原業平が通っていた時のことですが、彼女が中将のもとに歌を詠んでやった。
 
 秋萩に色をつける秋風が、とうとう吹いてきましたので
  もう飽きてしまったのではなかろうかと、
   あなたの心も疑われるのです

とあったので、
  秋の野に色をつける秋風が吹いてしまっても
  私の心はあなたから離れはしませんよ。
  枯れた草葉ではありませんから。

といった。こうして、通わなくなってしまった後こと、中将の所から着物を仕立ててくれと使いをよこした。それには「洗濯してくれる人がいないので、大変不自由しております。お願いだから必ずやって欲しいのです」と添えてあったので、彼女は「それは、あなたの心がけによるものなのでしょう」
 
 まるで大幣のように、沢山の女から引っ張られた末に流されてしまったあなたがお気の毒なのは
  夜に寄る瀬さえなく、哀しい鹿の鳴き声のように、そのように泣いていらっしゃるからです

と言って使いを返した。中将は、
  幣が流れていても、それは何に見えるのでしょう。同じように、私が泣いていても誰にも分かりません
  手に取って引き込んだ人のみが、それは幣だと知るように、私の心を引くあなたなればこそ、私の心をご存じなのでしょう

と言った。」

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