第 6 段


解説

 女が鬼に食われてしまうという、『伊勢物語』の中で唯一猟奇な話である。最後の、取って付けたような説明は、物語の鮮度を落としてしまうので省略して考えると、省かれたと考えられる最後の部分には、時の権力者たちにとって、よほど都合の悪いことが書いてあったと考えても不思議はないであろう。それは、『平家』の「安徳天皇の入水」の下りが、重要なポイントにもかかわらず、あっさりと切り捨てて書いてある理由は、死んだと思われている先帝の真の消息が記してあるので、時の権力者によって、ほとんどが削除されてしまったことと同じであろう。

 『今昔物語集』巻二七、在原業平中将女被ロ敢■鬼語第七
 今は昔のこと。右近の中将・在原業平という人がいた。噂どおりの大変な女好きの男で、「世の中での美女という評判を聞くや、宮仕えのおんなであろうか、普通の人の娘であろうがお構いなしに、一人残らず関係を結んで我がものにしよう」と思っていた。ある人の娘の「姿もその有様もこの世のものではないほどの素晴らしい」と聞いて、熱意を込めて思いを寄せた。しかし「もっとも権威のある方を婿にとるつもりでいる」と両親が言って、大切に育て上げたのだったので、無力な業平には手も足も出なかったが、一体どんな方法を使ったのか、その女をひそかに盗みだしてしまった。
 ところが、当面女を隠すところががなかったので、思い悩んでいたが、北山科の辺りの山荘がみつかった。荒れ果てて人も住んでいないその家の敷地内に大きな校倉があり、その片戸は倒れていた。人が住んでいた屋敷の外側の板敷の板も無く、とても立ち入ることなどできそうもないので、この倉の中にゴザを一枚持って、この女を連れて入って寝させたところ、突然「ドッカーン」と雷が鳴り響いた。中将は太刀を抜き、女を後ろに押しやって、起きあがって刀を構えているうちに、やっと雷も鳴り止んで夜も明けた。
 しかし、女の声がしないので、中将は不審に思い振り返ってみると、そこには女の頭がゴロンと転がり、着ていた着物が残っていただけであった。中将は異様に恐ろしくなり、着物さえ取らずに逃げ去ったのだった。その後、この倉は人を取る倉だとわかった。ということは、あの夜の出来事は、稲妻や雷鳴のせいではなく、倉に住んでいる鬼の仕業であったのだろうか。
 だから、不案内のところには、絶対に立ち寄ってはならないものである。ましてや、泊まるなどということは決してしてはいけないものだ、と語り伝えているということである。


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