第 4 段
解説
『大和物語一六一段』に同様の文がある。
むかし、ひんがしの五条に、大后の宮おはしましける、西の対に住む人ありけり。それをほいにはあらで、こころざし不可かりける人、ゆきとぶらひけるを、正月の十日ばかりのほどに、ほかにかくれにけり。ありどころは聞けど、人のいき通ふべき所にもあらざりければ、なほうしと思ひつゝなむありける。又の年の正月に梅の花ざかりに、去年を恋ひていきて、立ちて見、居て見、見れど、去年に似るべくもあらず。うち泣て、あばらなる板敷に、月のかたぶくまでふせてりて、去年を思ひいでてよめる。
月やあらぬ春や昔の春ならぬ
わが身はひとつもとの身にして
とよみて、夜のほのぼのと明くるに、泣く泣くかへりにけり。
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