群論・伊勢物語 第4段

(二条后要素_3)


 昔、京の東の五条に皇太后宮がいらしたが、その邸の西の対に住んでいる女性があった。とんでもないこととは思いながらも、愛の深き人が何度も通ったけれど、その女性は正月の十日頃に、別の所に姿を隠してしまった。その場所は聞いて知ってはいたが、とても普通の人が行き来できるような所ではなかったから、一層苦しい思いをしながら日を送っていたのであった。翌年正月の梅の花盛りの頃に、去年の今頃を恋いしくなって東の五条に行き、立っては見、座っては見、いくら辺りを見てみても、去年とは似ているはずもなかった。泣き泣き、荒れ果てた板敷に、月が西に傾くまで横になって、去年を思い出して歌を詠んだ

月は昔のままの月ではないように

  春は昔のままの春ではない

  ああ、私だけが昔のままの私である

と詠んで、夜がわずかに明るくなってきた頃、泣く泣く帰ったのだった。




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